「まったくテトムには困ったもんだな」

父親はため息をついた。所詮、子供には分からないことなのだろうか。

親の苦労なんて見えないんだろう。そう思った。

自分の若い頃は今とは違った。みんなの顔には笑顔があふれ、

現在のように、口を開けば悲観的な話が出てくるということもなかった。

もし、誰かが今年の出来はイマイチと言ってたりしたとしても、

そう言った人の畑に限って、他の畑より収穫が多かった。

 

いつの間にか昔のようにはいかなくなっていた・・・

 

自分は学校にも、ろくに行かなかった。

自分は勉強が出来ないと決め込んでいたし、

その時さえ良ければいいと思っていた。

だから、学校をよくさぼって街へ遊びに行ったりした。

もちろん、畑さえ持っていれば、将来は安心だと信じていた。

だから、父親が30年かけて開墾し広げた土地を素直に受け継いだのだ。

でも、今考えると学校に行っておけばよかったと思う。

自分の名前くらいしか書くことが出来ない父親を、

テトムは恥ずかしく思っていることだろう。

だからこそ、テトムには学校をちゃんと卒業して欲しいと願っていた。

成績なんてどうでもいい。せめて読み書きが出来さえすれば・・・

 

しかし今年はテトムに畑を手伝って貰うことにした。

悩んだ末の決断だった。

これが最後の収穫となるのだ。

畑は穀物メジャーのプラントの企業に売ることにした。

大分たたかれたが、

とりあえず3年は暮らしていけるだけの金は手に入った。

もう畑に未練はなかった。

 

「とうさん」

突然、風に乗ってどこからともなく声がした。

「とうさん、僕だよ」

声がする方に目をやると、じっとこちらを見つめているテトムが立っていた。

「な、なんでそんな所につっ立ってるんだ。早く仕事を始めろ!」

父親はドキッとした。でも、それを隠すために、わざと怒鳴った。

「とうさん、助けて・・・」

「だから、だめだと言っただろう!」

父親は怪訝そうに再び突っぱねた。

「フライヤー、壊れちゃったんだよ」

妙に存在感が薄い声だった。でもその分、目が強く訴えかけていた。

父親はテトムが普通の状態ではないことに気付いた。

「どうした。具合でも悪いのか」

父親は息子の顔色に目を凝らした。

テトムの後ろの地面が透けて見えていた。

「おまえ!どうしちまったんだ!」

テトムはそれには答えず、地平線を指差した。

「むこうの石の町で2人が困ってるの。助けて」

そう言うなりテトムの体はみるみるうちに消えていった。

「テトム!テトム!テトーム!」

父親の声は残響することなく風にかき消されていた。