「これで大丈夫だ」

「すみません・・・」ピーラは布で右手を固定してもらった。

「さて行くとするか」おじいさんは少し元気がなかった。

さっきの出来事でまだ動揺しているようだった。

「お前も行くか?」おじいさんはテトムの父親に一応聞いてみた。

「いや、やめておこう」そう言うとフライヤーに乗り込んだ。

老人は遠くから見守っていた。

「テトム!行くぞ!早く乗れ!」「いやだよ!僕はピーラと行くんだ」

「まだわからんのか!緑族に関わるとろくなことがない!

  今回のことでよく分かったろう!さあ分かったら帰るぞ」

「まあ待て」おじいさんが割って入った。

「あと少しで目的地に着く。そのくらいならいいだろう」

「おやじは緑族が憎くはないのか!みんな苦しんでいるんだぞ!

  そんな奴ら、助ける必要あるのか!」

「確かにお前の言うこともわからんでもない。ただ・・・

  ネイティブの自慢は”己のして欲しいことを人に施せ”なんだ

  お前には小さい頃からよく言い聞かせたはずだが・・・」

「バカらしい!そんなことを言っていると緑族に身ぐるみ剥がされるぞ!

  俺は帰る!バカらしくて聞いてられん!」

父親のフライヤーはノイズを発した次の瞬間、

 砂煙りを上げて上空へ舞い上がった。そして飛び去って行った。

「すみません僕のせいで・・・」ピーラがうなだれた。

「何を言っているんだ。困ったときは助け合わなくては。さあ、行こう!」

おじいさんはテトムとピーラを座席まで持ち上げた。

そのとき遠くから見ていた老人が近寄って来た。

そして、おじいさんの横に来ると小声で囁いた。

「安心していい。不安はあるだろうがあんたなら大丈夫だよ」

そして大声で叫んだ。「天空の神の守護のあらんことを!」

「サンキュウ」おじいさんは2本指で敬礼して微笑んだ。

「よし、出発だ!」

おじいさんはぎこちなく操作した。操作盤は以前と変わらなかった。

メインスイッチを入れ、エンジンスタートするとエンジン音ではなく、

 ノイズ音が辺りを包んだ。おじいさんは少しさびしい気持ちになった。

「すまない!今度来た時にエンジン音が出るように改造するよ!」

下から老人の声がした。

「ああ、ぜひ頼むよ!レトロマニアなんだ!」

フライヤーは濃い青色の空に吸い込まれていった。

「結果的には修理してもらった事になるのかな」

おじいさんは考え深げに呟いた。

「プラズマ式になって良かったじゃないですか」ピーラは満足げだ。

「好みの問題だな。あの風を滑らかに流すプロップファンが好きなんだよ」

 

「じいちゃん!」テトムが突然叫んだ。

「どうした?テトム」「見て!後ろ」おじいさんは振り返った。

おじいさんの顔色が変わった。

 

ザーーーー

かすかに聞こえる音に全く気が付かなった。

夜の波が数10キロの所まで迫って来ていたのだ。

すでに上空の空は紫色に染まっていた。

夜の波の先端部分に掛かっていたのだ。

 

「お、おじいさん!急いでお願いします!」ピーラの悲痛の叫びが響いた。

「分かった!」おじいさんはスロットルを上げた。

フライヤーは素早く加速した。「じいちゃん!がんばれ!」

テトムも背中を押した。

おじいさんは急激な加速に戸惑いながらも、なんとかコツを掴みかけていた。

「初めての着陸の時を思い出すよ」

「どういう意味?」ピーラとテトムは首をひねった。

「はじめはどうやっていいか見当もつかないが、

  慣れれば椅子に腰掛けるように簡単に出来るってことさ」

「ふーん」2人にはやっぱり理解出来なかった。